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創業者の想い

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一匹のヤモリ

一匹のヤモリ

夜、玄関の灯りに誘われて、一匹のヤモリが壁を這っていた。子どもの頃、祖母はそれを見て言った。「ヤモリがおる家は、いい家。」理由は聞かなかった。子どもというものは、大人の言葉を、そのまま信じるものである。

大人になって知った。ヤモリは「家守」と書く。昔の人は、小さなその生き物に、家を守る願いを重ねたのだろう。考えてみれば、不思議な生き物である。誰にも気づかれず、誰にも褒められず、それでも何年も同じ家に棲み続ける。決して主役にはならない。だが、いなくなると、どこか寂しい。私は、その姿が好きである。

いい仕事というものも、案外そんなものではないかと思う。派手である必要はない。困った時に、手が差し伸べられる。それだけで、人は安心する。家もまた、同じである。雨の日も、真夏の強い陽射しの日も、凍える冬の夜も、文句ひとつ言わず、家族を守り続けている。

だが、その家も歳を重ねる。建具の動きが少し悪くなり、雨樋に落ち葉が詰まり、設備も少しずつ疲れてくる。壊れることは、悪いことではない。年月を重ねれば、どんなものにも手入れは必要になる。だからこそ、壊れてから駆けつけるのではなく、壊れないように見守る。それが、本当の意味で家を守ることではないだろうか。

私たちは、家を作るだけの会社になりたいのではない。届けたいものは、安らぎや寛ぎである。守りたいものは、暮らしである。新築から十年。二十年。三十年。住まいと家族の時間は、そこからが本番だ。柱についた傷も、少し飴色になった木の床も、家族が積み重ねてきた時間の証である。新築の美しさとは違う、暮らした家だけが持つ美しさがある。

創業明治三十年。来年で百三十年になる。その歳月のなかで、木を知り、家をつくり、暮らしを見つめてきた。そして、家を守り続けてきた。その歩みの先に、自然と残った言葉がある。家守り。ヤモリのように、決して目立たない。威張らない。けれど、いつもそこにいる。困った時には、すぐに駆けつける。何十年もの暮らしを、静かに見守り続ける。

「ヤモリがおる家は、いい家。」私たちも、そんなふうに呼ばれたい。

 

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