悪い虫
悪い虫
また悪い虫が騒ぎ出した。
オーディオである。
十代の頃から、ジャズとブルース、それに七十年代のロックを聴いてきた。最初から何かが分かっていたわけではない。ただ、サックスの太い音や、腹の底に響くウッドベースを聴いていると、妙に心が湧き立った。
それ以来、ずいぶん長いこと聴いている。
聴く音楽が変わった時期もあった。仕事に追われ、ゆっくりレコードをかけることも少なくなった。それでも時折聴くジャズは、昔と変わらず、こちらを向いていた。
そして最近また、悪い虫が騒ぎ出した。
今回、目に留まったのは、古いJBLのスピーカーである。4343という、四十年以上前につくられた大きなスピーカーだ。一台八十キロ近くもあるというから、気軽に買って、気軽に置けるような代物ではない。それでも、妙に惹かれる。
同じ4343にも、古いアルニコ磁石を使ったものと、後のフェライト磁石を使ったものがある。また後継機の4344は主にフェライト仕様で、こちらの方が私たちロック世代にはよく知られている。
けれど、アルニコの4343には、音に独特の太さと艶があるという。ウッドベースには弾力があり、サックスは太く鳴る。スネアの一打は乾いて、こちらへ飛んでくる。
正確というより、生々しいのだろう。
そんな話を聞くと、いけない。
欲しくなる。
新しい製品ほど品質がそろい、扱いやすく、手もかからない。それはそれで、良いことである。一方で、古いものには、均一さとは別の魅力がある。
もちろん、アルニコ磁石も古ければよいというものではない。長く使えば磁力が弱ることもあり、エッジや内部の部品も傷んでいく。きちんと手を入れなければ、本来の音は戻らない。
そのあたりが、少し家と似ている。
放っておけばよいというものではない。手入れをしながら使う。傷んだところを直し、また次の時間へ渡していく。そうして初めて、古さが味わいになる。
今回見つけた4343にも傷があり、部品の一部には欠けがある。それでも手を入れられ、もう一度、音を鳴らそうとしている。
新品のようではない。
そこが、少しよい。
古いJBLから、黒いジャズが流れる。
そう考えただけで、悪い虫が、また少し騒ぎ出す。

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