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時の家

時の家

十七年前、会社の駐車場だった場所に、一軒の建物を建てた。私たちがどんな家をつくっているのか。言葉や写真ではなく、実際に見てもらいたいと思ったからだ。その家を、私たちは「博多町屋」と名づけた。

軒を低く抑え、木を使い、土を使った。建てたばかりなのに、どこか昔からそこにあったような家。そんなものをつくりたかった。この名前も悪くはなかった。事務所では今も「町屋」と呼ばれている。ただ、こちらの意図がうまく伝わらない名前だと、以前から感じていた。そう思いながら名前を変えることもなく、歳月が過ぎた。

柱や梁の色は深くなり、無垢の床には艶が出た。庭に植えた木々も大きくなり、いつの間にか、家と庭がひとつの風景になっていた。傷もある。色の変わったところもある。当然である。それだけの時間を、この家は過ごしてきたのだから。

けれど、ある日この家を眺めながら思った。悪くない。むしろ、建てた頃よりいい。古くなった、というのとは少し違う。「時を重ねたそんな言葉のほうが、この家には似合う。そして、ふと、「時の家」という言葉が頭に浮かんだ。これなら、今のこの建物にしっくりくる。

自然の素材でつくった家は、新しいときだけが美しいものではない。時とともに変わっていく。陽の光を受ける。人の手が触れる。夏が来て、冬が来る。傷がつき、色が変わる。壊れれば直す。そうして手を入れながら歳月を重ねるうちに、建てたばかりの頃にはなかった艶や風格が生まれてくる。

それを私たちは、家の本当の美しさだと考えてきた。振り返れば、私たちは今も、当時とほとんど同じ素材で家をつくっている。木を使う。土を使う。石を使う。あの頃に選んだものを、今もいいと思って使っている。流行りの素材ではない。いや、もともと流行るものには、あまり興味がなかったのだと思う。

建ったばかりの美しい家は、さまざまな場所で見ることができる。けれど、歳月を経た家を見られる機会は、案外少ない。ピカピカで傷ひとつない、最新のモデルハウスもある。けれど、十七年を経た家は、十七年かけなければつくれない。これは、どうしようもない。時間だけは、急ぐことができない。だから今も「この家を見てください」と言えることを、私は誇らしく思う。

ここで見てもらいたいのは、建てた当時の私たちの仕事だけではない。木の艶を見てほしい。柱や梁の色を見てほしい。庭の木々と家が馴染んだ姿を見てほしい。傷も、手を入れた跡も含めて、そこに流れた時間そのものを見てほしい。これから家を建てる人にとって、本当に見ておいたほうがいいのは、こちらなのかもしれない。

自分たちが建てようとしている家は、年月を重ねた先に、どんな姿になっているのか。その未来を、この家で少しだけ見ることができる。ここには、長崎材木店一級建築士事務所が考える家づくりの、十七年後がある。だから「博多町屋」と名づけたこの家を、これからは「時の家」と呼ぶことにした。これからまた十年、二十年と、時は流れていく。木はさらに色を深め、庭の木々はもっと大きくなり、今とはまた違った風景になっているはずだ。

家は、人と同じように歳をとる。ならば、いい歳のとり方をする家をつくりたい。より美しく、住み継ぐ。建てた頃には、今ほどこの言葉の意味をわかっていなかったのかもしれない。けれど、歳月を重ねたこの家を見ていると、私たちがつくりたかったものは、案外、最初から変わっていなかったのだと思う。時の家。今は、その名前が一番しっくりくる。

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