見学会に行くのは、少し勇気がいる。
見学会に行くのは、少し勇気がいる。
まだ建てると決めていない。土地も決まっていない。何を聞けばいいのかわからない。行けば、そのまま家づくりの話が進んでしまいそうだ。
その気持ちはわかる。迎える側は慣れていても、訪ねる側にとっては初めてのことなのだから。
そのうえ、私たちの住宅見学は完全予約制である。
近くを通ったから、ちょっと見てみたい。思い立ったときに、気軽に立ち寄りたい。そういう方には、ハードルが高いのかもしれない。
完全予約制にしているわけ。
それでも予約をお願いしているのは、せっかく来ていただく時間を、大切にしたいからである。そして、私たちの家づくりが、対話から始まるものだからである。
イギリスの紳士服の世界に、「Bespoke(ビスポーク)」という言葉がある。
仕立て職人が依頼者と話し合い、生地を選び、身体を測り、型紙を起こし、一着の服を仕立てていく。好みや着心地を確かめながら、手仕事を重ねていく。
私たちの家づくりも、この考え方に近い。
朝は、どこで過ごしたいか。家に帰ったら、まず何をしたいか。家族と一緒にいる時間と、一人で過ごす時間。今の住まいで気に入っていること、困っていること。
そうした話を聞いていると、その方にとって大切なものが、少しずつ見えてくる。
庭を眺めて落ち着く方もいれば、台所に立ったときの家族との距離が気になる方もいる。部屋の数よりも、居間の居心地を大切にしたい方もいる。
同じ家をご案内していても、立ち止まる場所も、話す内容も違う。そのためには、落ち着いて向き合える時間が必要だ。
設計士がほかの打ち合わせに追われながらでは、十分にお話を聞けない。忙しそうだからと、質問を遠慮していただきたくない。
だから、その方のためだけに時間を用意し、準備をしてお迎えしたい。
それが、完全予約制にしている理由である。
できれば、ご予約のときに、気になることを一言伝えていただきたい。
「小さくても、ゆったり暮らせる家を見てみたい」
「木の家が好きなので、雰囲気を感じてみたい」
それくらいで十分で。今の住まいで困っていることでもいい。
一言いただければ、どこを見ていただこうか、どんな話が参考になるだろうかと、私たちは考えられる。到着される前から、ご案内の準備が始まるのである。
もちろん、土地も予算も、まだ決まっていなくて構わない。見てみなければ、自分の好みがわからないこともある。家づくりの知識を詰め込んでから来る必要もない。
まずは建物をゆっくり見てみたい、という方も歓迎である。相談したいことは、ご覧になってから考えていただいていい。
予約は、家を建てる約束ではない。これからの暮らしを考えるために、ゆっくりと見学の時間を取るということだ。
「この居間は落ち着く」
「ここは少し暗く感じる」
「台所は好きだけれど、自分には狭いかもしれない」
私たちがつくった家だからといって、褒めていただかなくていい。住宅見学は、家を褒めに行く場所ではない。
大きな窓を気持ちよいと感じる人もいれば、外から見られるようで落ち着かない人もいる。家族との距離が近いことを喜ぶ人もいれば、一人になれる場所が欲しい人もいる。
その違いにこそ、その方の家づくりの手がかりがある。
そして、見学のときには、少し立ち止まってみていただきたい。
居間の椅子に座る。窓の外を眺める。庭に出て、家を振り返る。木に触れ、塗り壁に落ちる光を見る。
ここで朝のコーヒーを飲んだら、どうだろう。雨の日に、この軒の下で過ごしたら、どんな気分だろう。
深い軒には、雨や日差しから建物を守る役割がある。庭は、窓から眺める景色となり、室内の居心地にも関わってくる。木の感触や塗り壁の表情は、実際に触れたり、光の移ろいを見たりすることで伝わるものがある。
私たちが大切にしているのは、暮らしに役立つ工夫が、そのまま美しさになる「用の美」である。
そうしたことは、設備や部屋の数を確認するだけでは伝わりにくい。その場所で過ごし、自分の感覚で確かめていただきたい。
私たちの説明だけで時間を埋めず、感じていただく時間も残しておきたいのである。
家に帰ってから、ご家族で「どこが好きだったか」「何が気になったか」を話してみる。その会話から見えてくることも多いはずだ。新しく聞きたいことが生まれたら、またご相談いただければいい。
私たちは、そうした対話を重ねながら、今の暮らしと、その先の暮らしを考えていく。
家族の人数や暮らし方は、時とともに変わる。だから、今に合わせながらも、先々の使い方を変えられる余地を残しておきたい。
収納も予算も同じである。何を大切にし、どこにお金をかけ、どこを簡潔にするか。日々の暮らしを聞きながら、無理のない予算の中で、長く使える家を考えていく。
私たちがつくりたい家は、例えるならば、長く愛用するツイードのジャケットのようなものだ。
決して派手ではない。しかし、飽きがこない。使うほどに身体になじみ、手入れをしながら付き合っていける。時を重ねた風合いも、その人らしさになっていく。
家も、そんな存在であってほしい。
その家でどんな暮らしをしたいのか。お客様との対話を重ねながら、少しずつ形にしていく。その始まりが、見学の時間だと思っている。
私たちにとっては、日々のご案内のひとつかもしれない。しかし、家を検討する人たちにとっては、休日の時間を使って訪ねてくださる一度の見学だ。
その一度を、慌ただしいものにしたくない。
「自分たちは、こんな暮らしが好きなのかもしれない」
そう感じて帰っていただけたら、うれしい。
私たちが完全予約制にしているのは、そういう見学の時間をつくりたいからである。
その時間を空け、準備をして、お待ちしています。

092-942-2745