南だけを向いているのを見ると、やはり残念に思う。
川の向こうにある景色
毎朝、川べりを散歩する。
川幅は二十メートル近くある。小さな川ではない。秋になると、ひんやりした風が吹く。冷たいけれど、歩いていると心地よい。土手にはコスモスが咲き、東には山並みが広がっている。西の遠くには、海へと続く松林が見える。
川沿いには家が並んでいる。毎日歩いていると、朝焼けに染まる山も、川の表情も、夕焼けの広がりも、季節とともに変わっていくのがわかる。ここは、自然を身近に感じられる素晴らしい場所だと思う。
ところが、その景色に向き合う家は意外と少ない。
南側に道路を挟んでに川がある家は、庭を設けて大きく開いている。川の方へ塀越しに視線が抜ける。
一方で、川向こうの北側に建つ家は、北に向かって閉じている。建売住宅だからだろうか、どの家も似たようなつくりに見える。
山は、遠くに眺める景色である。川は、山と異なり暮らしのすぐそばを流れている。季節によって水量や表情を変えながらも、この場所に未来永劫あり続ける。
そんな川の景色がすぐそこにあるのに、その北側を閉じてしまうのは、やはり惜しい。自分なら、北側にあれだけの景色があるなら、北へ大きく開く。
朝は、東に広がる山々を眺める。季節によって山の色は変わり、朝日が当たると、山の稜線が浮かび上がる。夕方には、西の空が大きく染まる。川の向こうに見える景色を、毎日の暮らしの中に取り込める。
南に道路がある土地では、南側は日当たりのよい「良い土地」とされる。道路もあり、明るい。だからリビングは南向きにする。それは自然な考え方なのかもしれない。
けれど、北側に川があり、その向こうに美しい景色が広がっているなら、日当たりだけで方角を決めてしまうのは惜しい。
南の光を取り入れながら、北の景色にもきちんと向き合う方法はあるはずだ。そこにある景色を暮らしの中へ招き入れることを、設計の出発点にしてもいい。
戸建て住宅の醍醐味は、自然をどれだけ暮らしに取り込めるかだと思う。
遠くに山や川が見えるなら、その景色を借りる。そうした景色がない土地なら、植栽や築山でつくる。
それでも視線の抜けが得られなければ、吹き抜けやハイサイドライトを設え空を狙う。夕日に染まる空や、流れる雲、月の姿を家の中から見る。そういうものを美しいと感じるのは、日本人が昔から持っている感性なのだろう。
せっかく一戸建てに住むのだから、自然を感じながら暮らしたい。
目の前にある景色を、ただの風景で終わらせず、毎朝の楽しみにできたらいい。ここにはそれだけの力がある。だからこそ、どの家も同じように南だけを向いているのを見ると、やはり残念に思う。

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