設計士の八川です。
景色とは、見えるものではなく、「感じるもの」である。
そう捉えたとき、土地に風景がなくても、
家の中に”情緒”を宿すことはできるのです。
たとえば、吉村順三の設計する家には、「絶景」はありません。
けれど、小さな庇越しの空や、障子越しにゆれる光が、「風景以上の深み」を感じさせてくれる。
現代の都市や新興住宅地のように、抜けも借景もない環境でこそ、「窓をどう設計するか」は設計者の哲学が問われるのです。
ふつう、窓は「光を入れる」「換気する」「外を見る」ために使います。
しかし景色が望めない土地においては、その目的を内側へ転換します。
従来の窓の役割 | 景色のない土地での再定義 |
---|---|
外の景色を眺める | 内の素材・陰影を魅せる |
光を取り込む | 光と影の「表情」を演出 |
外とつながる | 気配と時間を切り取る |
この”目的の反転”こそが、設計者の腕の見せどころ。
人は、空間に入ったときに視線がどこへ向かうかで心の落ち着き方が変わります。
景色のない土地では、”遠くを見渡す”視線ではなく、
意図的に”視線の留まる場所”をつくることが重要です。
たとえば──
これはもはや「窓」ではなく、空間を演出する”映像装置”なのです。
谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で語ったように、陰があるから光が美しいのです。
そこで重要になるのが「窓まわりの素材」。たとえば:
窓は、ただ光を入れるものではない。
素材に”語らせる”装置として、設計されるべきなのです。
景色がなくても、建築の中に”物語”を感じさせる手法はたくさんあります。
手法 | 解説 |
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中庭・坪庭 | 空間の重心を外部に置き、どの部屋からも視線を逃せる |
ピロティ状の軒下空間 | 外でも内でもない「間(ま)」を設計することで、窓の向こうに気配が生まれる |
造作カウンター+低窓 | 外の景色ではなく、行為(読書・書き物)に寄り添う窓設計 |
障子やルーバーでの視線のにじみ | 直接的な景色よりも”揺らぎ”や”ぼかし”で空気感をつくる |
これらはすべて、「風景がなくても、感情を動かす建築」をつくるための技法です。
窓が大きくて外から丸見えの空間では、どれだけ光が入っても人は落ち着きません。
反対に、「視線が守られている」と感じる空間は、人を安心させます。
だからこそ──
結果として、景色のない土地でも、その家独自の”心の風景”が生まれるのです。
A:大いにあります。
景色ではなく「光と影・素材と空間・時間の移ろい」を演出するために、窓は不可欠です。むしろ、外部環境に頼らず設計するからこそ、その家独自の”世界観”が立ち上がります。
A:高窓・スリット窓・障子や木製ルーバーなどを使えば、カーテンなしでも視線を遮りつつ、しっかりと光を取り込めます。近年は「カーテンのいらない家」の設計事例も増えています。
A:間取りの工夫次第で坪庭は高コストにせず設計可能です。例えば、LDKの一角を塀で囲って”半外部化”するだけでも、十分に内なる風景をつくれます。
「外に景色がないなら、内に”情景”をつくればいい。」
土地条件が厳しいというのは、設計の”制約”であると同時に、”自由”でもあります。
何もないからこそ、設計者の美意識と思想が如実に現れる。
私たちは、そんな場所にこそ、「住まい手の心を映す家」をつくりたいと考えています。
私たち長崎材木店一級建築士事務所は、”より美しく、すみ継ぐ”という思想のもと、福岡で自然素材の注文住宅を、設計から施工まで一貫して手がけています。ただ家を建てるのではなく、暮らしをかたちにすることを何より大切にしています。「福岡で家を建てるなら、長崎材木店 一級建築士事務所」──そう言っていただけるように。