── 間接照明でつくる、住まいの“静けさと深み”の設計論
日本人の感性において、「明るさ=美しさ」ではありません。
むしろ私たちが本能的に「美しい」と感じるのは、**陰影のある空間=“明るさと暗さのあいだ”**です。
谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中でこう記しています。
“われわれの祖先は、光の少ないところに住まい、
闇に沈む美の中に、精神の深みを見出していたのではないか。”
間接照明の最大の効用は、まさにこの**「陰影をデザインする」**という行為にあります。
照明における陰影は、単なる“明るさの差”ではなく、次のような心理的効果を引き出します:
落ち着きと安心感:脳が光のコントラストに静かに反応し、自律神経が整う
空間の奥行き:影があることで“空間にレイヤー”が生まれ、深く感じる
美的な引き算:全てを照らさず、“隠す”ことで想像の余白が生まれる
素材への感受性:木、塗り壁、和紙、石などの素材感が強調される
つまり、陰影は単に見た目を整えるものではなく、「空間と人のあいだ」に“詩情”を宿す作用を持っています。
すべてを明るくするのではなく、「明るいところ」と「暗いところ」を設計する。
これが陰影設計の基本です。
間接照明で壁・天井を「柔らかく照らす」
家具や構造体がつくる「自然な影」を壊さない
一灯で全体を照らすのではなく、「多灯分散」で“光のレイヤー”をつくる
👉 影は“設計しないと生まれない”ということです。
光は素材によって「跳ね返り方」「影の濃さ」が異なります。
素材 | 光の反応 | 生まれる陰影 |
---|---|---|
漆喰・塗り壁 | 柔らかく拡散 | グラデーションが美しい |
木(無垢材) | あたたかく反射 | 木目の陰影が深まる |
モルタル・石 | 光を吸収/乱反射しやすい | シャープな陰影 |
和紙・布 | 通す+拡散 | 柔らかな間接光 |
👉 設計段階で「どの素材に、どんな光を当てるか」を描ききることが大切です。
陰影は、目で見るものではなく**“感じる光”**です。
リビングはソファの目線高さで壁に陰影が現れるように
寝室はベッドサイドから見える「間の暗がり」を設計する
廊下や階段はあえて暗めにして、“移動のリズム”をつくる
明るさ=安全・快適、ではありません。
暗さ=安心・深さ、でもあるのです。
光源は完全に隠れ、光が天井を滑るように走る。
天井の陰影が壁に落ちることで、空間が“静かに立体化”する。
照明を背面に仕込み、光が左右の壁へ“広がりながら薄れていく”。
影があるからこそ、光が柔らかく感じられる設計。
オブジェの後ろに落ちる影が、来客に“空間の奥行き”を印象づける。
照らすのではなく、浮かび上がらせるという思想。
→ 必ず調光機能を設け、夜は落とす設計に
→ 拡散板付きのLED・適正な設置距離が必要
→ 凹凸感のある左官・木目・布などの面を選ぶ
→ 間接照明+直接照明(タスクライト)でバランスを取る
Q:陰影をつくるためには、暗くしないといけませんか?
A:全体を暗くする必要はありません。**明るさと暗さの差を“意図的に配置”することで、美しい陰影は生まれます。**むしろ明るさが均一だと、空間が平坦に感じられます。
Q:間接照明だけでは影になりすぎて使いにくくないですか?
A:読書や作業には別のタスク照明(スポット・スタンド)を併用します。間接照明は“全体の空気感”を整えるものと捉えると効果的です。
Q:白い壁と間接照明、陰影が出にくいのでは?
A:白でも塗り壁・和紙クロス・繊維壁など反射に表情がある素材を使えば十分陰影が現れます。逆に光沢の強いビニルクロスは不向きです。
Q:調光は必須ですか?
A:陰影を楽しむためには調光はほぼ必須です。時間帯・季節・生活シーンによって光量をコントロールできると、空間に“情緒”が生まれます。
間接照明とは、ただオシャレにするための照明ではありません。
陰影とは、「明るさ」と「暗さ」の対話であり、そこに“感情と時間”が宿ります。
素材が美しく見えるのは、影があるから
空間に奥行きを感じるのは、暗さがあるから
人が落ち着くのは、全てが見えないから
陰影とは、光を抑えることで生まれる**「設計の余白」**です。
その余白があるからこそ、人は空間と静かに向き合えるのだと、私は思います。
私たち長崎材木店一級建築士事務所は、“より美しく、すみ継ぐ”という思想のもと、福岡で自然素材の注文住宅を、設計から施工まで一貫して手がけています。ただ家を建てるのではなく、暮らしをかたちにすることを何より大切にしています。「福岡で家を建てるなら、長崎材木店 一級建築士事務所」──そう言っていただけるように。