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【設計思想】「陰影」は空間に“奥行きと余韻”をもたらす

【設計思想】「陰影」は空間に“奥行きと余韻”をもたらす

── 間接照明でつくる、住まいの“静けさと深み”の設計論


■ なぜ、陰影が美しいと感じるのか?

日本人の感性において、「明るさ=美しさ」ではありません。
むしろ私たちが本能的に「美しい」と感じるのは、**陰影のある空間=“明るさと暗さのあいだ”**です。

谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中でこう記しています。

“われわれの祖先は、光の少ないところに住まい、
闇に沈む美の中に、精神の深みを見出していたのではないか。”

間接照明の最大の効用は、まさにこの**「陰影をデザインする」**という行為にあります。


■ 陰影がもたらす「心理効果」

照明における陰影は、単なる“明るさの差”ではなく、次のような心理的効果を引き出します:

  • 落ち着きと安心感:脳が光のコントラストに静かに反応し、自律神経が整う

  • 空間の奥行き:影があることで“空間にレイヤー”が生まれ、深く感じる

  • 美的な引き算:全てを照らさず、“隠す”ことで想像の余白が生まれる

  • 素材への感受性:木、塗り壁、和紙、石などの素材感が強調される

つまり、陰影は単に見た目を整えるものではなく、「空間と人のあいだ」に“詩情”を宿す作用を持っています。


■ 陰影を生み出す照明デザインの基本原則

1|照明は“空間全体”を照らしてはならない

すべてを明るくするのではなく、「明るいところ」と「暗いところ」を設計する
これが陰影設計の基本です。

  • 間接照明で壁・天井を「柔らかく照らす」

  • 家具や構造体がつくる「自然な影」を壊さない

  • 一灯で全体を照らすのではなく、「多灯分散」で“光のレイヤー”をつくる

👉 影は“設計しないと生まれない”ということです。


2|素材との相互作用を利用する

光は素材によって「跳ね返り方」「影の濃さ」が異なります。

素材 光の反応 生まれる陰影
漆喰・塗り壁 柔らかく拡散 グラデーションが美しい
木(無垢材) あたたかく反射 木目の陰影が深まる
モルタル・石 光を吸収/乱反射しやすい シャープな陰影
和紙・布 通す+拡散 柔らかな間接光

👉 設計段階で「どの素材に、どんな光を当てるか」を描ききることが大切です。


3|“見るため”の照明ではなく、“感じるため”の照明にする

陰影は、目で見るものではなく**“感じる光”**です。

  • リビングはソファの目線高さで壁に陰影が現れるように

  • 寝室はベッドサイドから見える「間の暗がり」を設計する

  • 廊下や階段はあえて暗めにして、“移動のリズム”をつくる

明るさ=安全・快適、ではありません。
暗さ=安心・深さ、でもあるのです。


■ 陰影を生かした間接照明の施工例(再構成)

◉ リビング折り上げ天井(コーブ照明)

光源は完全に隠れ、光が天井を滑るように走る。
天井の陰影が壁に落ちることで、空間が“静かに立体化”する。

◉ 寝室のベッド背面間接照明

照明を背面に仕込み、光が左右の壁へ“広がりながら薄れていく”。
影があるからこそ、光が柔らかく感じられる設計。

◉ 玄関ニッチの陰影照明

オブジェの後ろに落ちる影が、来客に“空間の奥行き”を印象づける。
照らすのではなく、浮かび上がらせるという思想。


■ 陰影を壊さないための注意点

● 誤った調光設定 → 明るすぎる光で空間が“のっぺり”する

→ 必ず調光機能を設け、夜は落とす設計に

● LEDの粒が見える → 壁面に点々とした影が落ちる

→ 拡散板付きのLED・適正な設置距離が必要

● 照らす面がツルツル → 影が出ず、光が“死ぬ”

→ 凹凸感のある左官・木目・布などの面を選ぶ

● 暗さに耐えられない家族もいる

→ 間接照明+直接照明(タスクライト)でバランスを取る


よくあるご質問(FAQ)

Q:陰影をつくるためには、暗くしないといけませんか?
A:全体を暗くする必要はありません。**明るさと暗さの差を“意図的に配置”することで、美しい陰影は生まれます。**むしろ明るさが均一だと、空間が平坦に感じられます。

Q:間接照明だけでは影になりすぎて使いにくくないですか?
A:読書や作業には別のタスク照明(スポット・スタンド)を併用します。間接照明は“全体の空気感”を整えるものと捉えると効果的です。

Q:白い壁と間接照明、陰影が出にくいのでは?
A:白でも塗り壁・和紙クロス・繊維壁など反射に表情がある素材を使えば十分陰影が現れます。逆に光沢の強いビニルクロスは不向きです。

Q:調光は必須ですか?
A:陰影を楽しむためには調光はほぼ必須です。時間帯・季節・生活シーンによって光量をコントロールできると、空間に“情緒”が生まれます。


まとめ|光と影の“あいだ”を設計する

間接照明とは、ただオシャレにするための照明ではありません。
陰影とは、「明るさ」と「暗さ」の対話であり、そこに“感情と時間”が宿ります。

  • 素材が美しく見えるのは、影があるから

  • 空間に奥行きを感じるのは、暗さがあるから

  • 人が落ち着くのは、全てが見えないから

陰影とは、光を抑えることで生まれる**「設計の余白」**です。
その余白があるからこそ、人は空間と静かに向き合えるのだと、私は思います。


私たち長崎材木店一級建築士事務所は、“より美しく、すみ継ぐ”という思想のもと、福岡で自然素材の注文住宅を、設計から施工まで一貫して手がけています。ただ家を建てるのではなく、暮らしをかたちにすることを何より大切にしています。「福岡で家を建てるなら、長崎材木店 一級建築士事務所」──そう言っていただけるように。

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