風土の力
風土の力
酒は、つくられるものではない。
その土地で「育ち醸成」されるものだと思っている。
どんな水が流れているか。
どんな風が吹き、どんな湿り気を帯びているか。
蔵に棲みつく酵母までもが、その土地の癖を帯びている。
だから、酒には土地の気配が宿る。
同じ製法でも、同じようにはならない。
土地が違えば、水が違い、空気が違い、時間の流れ方まで変わる。
酒は、それを正直に映す。
かつて日本酒には、「特級・一級・二級」という等級制度があった。
戦後、国が審査を行い、酒にランクをつけていた時代だ。
特級は高級、一級は中級、二級は大衆酒。
皮肉なことにこの等級制度は、単なる「美味しさ」ではなく、
酒税と等級は密接に関係していた。
人はその分かりやすさを頼りに、酒を選んでいた。
だがやがて、その枠は現実と合わなくなる。
二級酒の中にも、静かに質の高い酒が現れはじめたからだ。
ラベルと中身がずれていく。
制度はあっても、味はそこに収まらない。
酒というものが、本来そういうものだという証でもある。
そしてもう一つ、大事なことがある。
酒は、その土地で飲んでこそ完成するということだ。
わかりやすくいうならば、沖縄で飲む泡盛だ。
島の湿った風、ゆるい時間、あの光の強さ。
それらが混ざって、あの味になる。
あれは、やはり島で飲まなければならない。
あの風と空気の中でなければ、あの味にはならない。
アイラの酒も同じかもしれない。
外に持ち出せば、味は残る。
だが、本当の意味での“旨さ”は、少し抜け落ちる。
空気が違う。
温度が違う。
聞こえてくる音や、交わされる言葉が違う。
それらすべてが合わさって、ようやく一杯の酒になる。
名があるかどうかは関係ない。
評価も、格も、あとからついてくるものだ。
本質は、もっと静かなところにある。
その土地で生まれ、
その風土の中で育ち、
その景色の中で飲まれる酒。
それが、いちばん自然で、いちばん深い。
酒の味とは、液体の中にあるのではない。
風土ごと飲むものなのだ。
建築もまた、同じことが言えるのかもしれない。

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