建築の装置
梅雨になると、軒のありがたさがわかる。
6月に入った。
いよいよ梅雨である。
朝の空気の入れ替えをする為、窓を開ける。毎日のルーティーン。
毎年のことだが、この時期になると雨の多い日本という国を改めて実感する。
洗濯物は乾かない。
庭にも出られない。
外出するのも少し億劫になる。
だが、家づくりをしている者からすると、梅雨は建物の実力がよく見える季節でもある。
その代表が「軒」という建築装置。
軒とは、壁より外に出た屋根の部分のことである。
長崎材木店の家は、最低でも90センチ。一般的な住宅の倍以上は出ている。
さらに大きなものになると1.2メートルから1.3メートルほど軒を出している。
最近は軒のない四角いモダンな家をよく見かける。
本来雨の少ないヨーロッパの石やコンクリート造りの建築である。形だけ模している。
確かに見た目はシャープで現代的だ。
だが、私は少し疑問に思う。
日本の家は木の家である。20年後、30年後どうなるのだろう。
そもそも日本は世界有数の雨の国である。アジアモンスーン地域。
福岡も例外ではない。
梅雨には長雨が続き、
夏にはゲリラ豪雨がやって来る。
一年を通して考えれば、家は太陽よりも雨と付き合う時間の方が長い。
その雨から家を守るために、日本人は昔から軒を出してきた。
軒があれば壁が濡れにくい。
雨も気にせず窓をしっかり開けられる
木も傷みにくい。
そして何より、梅雨の時期でも窓を開けて暮らせる。
風が通る。
湿気が抜ける。
エアコンだけに頼らない暮らしができる。
夏になると今度は日差しを遮る。
高い位置から差し込む強烈な西日や南の日差しを受け止めてくれる。
おかげで室内は暑くなりにくい。日除のすだれもカーテンもいらない。
昔の人は経験則でちゃんとわかっていたのだろう。
軒とは飾りではない。
暮らしを快適にし、家を長持ちさせるための知恵なのである。
そしてもうひとつ。
雨樋も立派な建築装置である。
屋根に落ちた大量の雨水を受け止め、壁や基礎を傷めることなく地面へ導く。
実に地味な存在だ。
しかし、地味だからこそ大事なのである。
意外と盲点であるが、樋は太陽からの紫外線を直接受けることで劣化が激しい建築パーツである。
したがってプラスチック製ではなく
弊社では耐光性のあるガルバニウム鋼板製の物を選択している。
(※例外で樋をつけない場合もある。ただしその場合は少なくとも軒を1200以上出す。
壁を汚したくない場合はガルバニウム鋼板で仕上げる場合もある。)
建築には、目立たないが重要なものがたくさんある。
軒もそう。
雨樋もそう。
打ち合わせではほとんど話題にならない。
だが十年後、二十年後になると、その差は確実に現れる。
家づくりとは、流行を追いかけることではない。
その土地の気候を読み、
雨を読み、
風を読み、
太陽を読むことだ。
日本には日本の家がある。
私はそう思っている。
ところで軒は深ければ深いほど良いというものでもない。
軒の出が1mを超えると、その超えた部分に応じて建築面積が増え、
結果として建ぺい率にも影響が出る。
私たちは敷地条件を見ながら、雨と太陽のバランスを考え、
一軒一軒最適な軒の出を決めている。
梅雨になると、そんなことを考える。
雨の日に静かに家を守る軒。
派手さはない。
だが本当に良い家というものは、
案外こういう目立たない仕事の積み重ねで出来ている。

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