南側信仰から抜け出す
南側信仰から抜け出す
毎朝4時、愛犬と30分ほど散歩をする。
まだ人通りもない時間だ。
季節によって空気の匂いが変わり、木々の表情も変わる。
私はこの時間が好きである。
同時に、職業柄いろいろな家を観察する時間でもある。
私の住む地域は用途地域的に決して恵まれた住宅地ではない。
目の前には7階建てのマンション。隣家との距離も近い。
決して敷地条件に恵まれた場所ばかりではない。
そんな街並みを歩いていると、あることに気づく。
多くの家が、南側に大きな窓を設けているのである。
確かに住宅設計の基本として、
「南側にリビング」
「南側に大きな窓」
という考え方は昔からある。
だが、その南側のすぐ向かいに7階建てのマンションが建っていたらどうだろう。
一日中、人の視線にさらされる。
結果としてレースカーテンだけでなく、厚手のカーテンまで閉めたままの生活になる。
せっかくの大開口も、実際にはほとんど活用されていない。
それならば発想を変えるべきではないだろうか。
例えば東側に視線の抜けがあるなら、そこに大きな窓を設ける。
朝日を取り込みながら食事をする。
あるいは住宅が密集しているなら、中庭を設ける。
コの字型やロの字型のプランによって、外部からの視線を遮りながら光や風を取り込むこともできる。
本当に見るべきなのは方位ではない。
その土地の「抜け」である。
どこに空が見えるのか。
どこから光が入るのか。
どこに風が抜けるのか。
どこならカーテンを閉めずに暮らせるのか。
そこを読み解くことが設計の仕事である。
現代の住宅地は、多くの家が南側を空けるように建てられている。
その結果、後ろ側の敷地から見れば、
南側にはすでに大きな家が境界いっぱい近くまで建っていることも少なくない。
つまり、教科書通りの「南向き」が必ずしも有利とは限らないのである。
むしろ現代では、方位よりも環境を読む力が重要になっている。
大きな家だから暮らしやすい。
広い家だから快適。
そんな時代でもなくなった。
小さな家でも、設計次第で驚くほど開放的に暮らせる。
カーテンを閉めない暮らし。
光と風を感じる暮らし。
視線を気にしない暮らし。
それらは床面積ではなく、小さくてもプランニングによって実現することができる。
さらには家を小さくできれば、建築コストも抑えられる。
資材価格が上がり続ける今だからこそ、必要以上に大きな家をつくるのではなく、
合理的な面積の中で最大限の豊かさを引き出す設計が求められている。
これからの家づくりに必要なのは、南側信仰ではない。
土地を読み解く力である。
敷地の条件を丁寧に観察し、その場所にしかない景色を見つけ出すこと。
その積み重ねが、面積以上の豊かさを持つ家を生み出すのだと思う。

092-942-2745