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経年価値が落ちない家づくり。

経年価値が落ちない家づくり。

住宅業界ではよく「資産価値」という言葉が使われる。

しかし本当に大切なのは、売却時の査定額だけではない。

住み続けるほどに愛着が深まり、美しさを増し、暮らしに馴染んでいくこと。

私はそれを「経年価値」と呼びたい。

経年価値が落ちない家をつくるために、まず重要なのは素材である。

無垢の木の床、本物の塗り壁や左官壁といった自然素材は、

時間の経過とともに劣化するのではなく、むしろ美しさを増していく。

自然のものは自然のままに歳を重ね、深みを帯びていくのである。

ウレタン塗装で仕上げられた均一で光沢のあるツルツルピカピカの床は、

年月とともに表面が傷み、その魅力を失っていく。

一方で無垢材の床は、

一番肌が触れるところでもあり梅雨時の足触りなどいつもさらりと快適に過ごせる。

また使い込まれることで艶を増し、小さな傷さえも家族の歴史として刻まれていく。

 

次に重要なのがプランニングである。

間取りは、過度に個別最適化された「わがままな家づくり」ではなく、

長期にわたり住み続けることを前提とした普遍性が求められる。

子どもは成長し、独立する。夫婦も歳を重ねる。暮らし方は必ず変化する。

だからこそ無駄のないシンプルな構成と、将来の変化に対応できる可変性が重要になる。

部屋を増減できる余白を残し、作り込みすぎないこと。

完成度を上げすぎないことが、結果として長寿命の住宅につながる。

 

断熱性能についても同様である。

もちろん一定以上の性能は必要だ。しかし断熱性能だけを追い求めるあまり、

窓(開口部)を少なくしたり小さくしたり、性能数値だけを目的化することには疑問を感じる。

住宅は工業製品ではなく、人が暮らす場所である。

断熱は重要な要素の一つだが、それだけで住み心地は決まらない。

 

光や風、景色との関係、素材の質感や空気感まで含めて考えるべきだろう。

外壁についても同じである。

サイディングは施工しやすい反面、目地のコーキングが約8年から10年で劣化し、

定期的な補修が必要になる。

一方で塗り壁は、適切な設計と施工がなされれば長期にわたり安定し、

建物そのものに落ち着いた風格を与えてくれる。

そして忘れてはならないのが軒である。

軒は日本建築が長い年月をかけて生み出した優れた建築装置である。

雨風や紫外線から建物を守り、夏の日差しを遮り、冬の日差しを室内へ導く。

屋根は外壁から十分に張り出し、最低でも90センチ程度は確保したい。

軒が取れない場所には庇を設けるなど、建物を守る工夫が必要である。

こうした「素材」「プラン」「断熱」「外皮」「軒」。

どれか一つだけを突出させるのではなく、過不足なくバランスよく整えることが大切である。

 

振り返れば、これらは決して新しい考え方ではない。

日本は雨が多く湿度の高い国であり、古来より建築は風を通し、日差しを制御し、

自然と共存することで長寿命を実現してきた。

私たちは最新技術を否定したいわけではない。

しかし、流行や数値競争に振り回されるのではなく、

日本の気候風土の中で長く愛されてきた建築の知恵に、

もう一度目を向けるべき時期に来ているのではないだろうか。

経年価値が落ちない家とは、新しい家ではない。

十年後、二十年後、三十年後に、今よりも美しくなっている家のことである。

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