値札の見えないショーウインドウ
値札の見えないショーウインドウ
ネパールのカトマンズで、またひとつ店を覗いた。
ショーウインドウに置かれた小さな置物。
値札は、こちらから見えないように、裏返しにされている。
なぜだろう。
日本にいる時から薄々感じていた疑問であるが
海外に来てふと、理由が見えた気がした。
これは「値段を見る前に、まずお店の中に入ってきてほしい」という合図なのだ。
興味がなければ、それでいい。
だが、少しでも心が動いたなら、中に入って、話を聞き、触れてほしい。
そのうえで、価値を感じた人にだけ、価格を伝える。
効率は悪い。
だが、真理である。
よく考えると日本の洋服店も、同じことをしている。
値札はすぐに見えないように隠されている。
まずは袖を通し、手触りを確かめ、鏡の前に立つ。
色や形が自分の身体や感覚に合うかどうかを知ってから、最後に価格を確かめる。
「値段で選ぶ前に、感じてほしい」
そんな店側の矜持が、そこにはある。
住宅も、まったく同じだと思う。
ホームページは、我々にとってのショーウインドウだ。
けれど、価格だけが前面に出てしまうと、
人は考える前に、判断してしまう。
家は、完成品を並べて売る商品ではない。
注文住宅は、部品の数も工程の数も、車と比べてみても比較にならないほど多い。
しかも、その家は、まだ存在していない。
目に見えないものを、信頼だけで買うという、極めて特殊な取引だ。
それでも人は、まだ形の存在していない物を注文する。
しかも人生で一番といってもいい高額商品。
なぜか。
そこに「この人たち、会社なら大丈夫だ」という感覚が生まれるからだ。
価格は重要だ。
だが、価格だけで決められるほど、家は軽いものではない。
住み始めてから何十年も、人生を包み込む器なのだから。
値札を裏返すという、あの小さな行為。
それは、「急がなくていい、商品の魅力やこだわりを聞いてほしい。」
「ちゃんと見て、感じて、決めてほしい」という、
作り手からの静かなメッセージなのだと思う。
家づくりも、そうかもしれない。

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