物への想い
物
今、インド・旧市街地オールドデリーを経てニューデリーにいる。ゴミと埃と人々と車やバイクのクラクションを掻き分けて歩く。牛もいる。ゴミと喧騒の街である。
夜の8時発で翌朝の6時着の夜行寝台列車でガンジス川(バラナシ)へと向かう。死者を葬る川である。揺られる車中でふと思う。自分も棺に横になりガンジスへ運ばれている様な錯覚を覚える。
さらに、ふとある考えが頭をよぎった。
物は、手に入れた瞬間に消費されてしまうということ。
作り手の思いは受け取ったときに伝わり、そこで一度役目を終えるのかもしれない。
だが、その先も残るかどうかは――
価格でも希少性でもなく、持ち主が抱く愛情と思い入れ。
その気持ちを失った瞬間、どれほど高額なものでもただの消費物となる。
反対に、心を寄せ続けた物は、古びても捨てられず、時間とともに価値をまとっていく。
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物の価値とは、所有の瞬間ではなく、
そのあと、どれだけ心が離れなかったかで決まる。

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