書斎はいらない。けれど、考える場所はいる。
今は朝の3時25分、家人が寝静まる中、一人リビングの一角で記事を書いている。
ということで今日のテーマ
書斎はいらない。けれど、考える場所はいる。
家を建てる相談を受けていると、ときどき「書斎って必要ですか?」と相談を受ける。
そのたびに、少し考える。
正直なところ、今の時代、書斎がなくても困らない。実際私の家には書斎がない。
パソコンさえあればどこでも仕事ができるし、本を読むのに特別な空間もいらない。
机がなくても、椅子さえあればそれで足りてしまう。
極端な話をすれば、上質な座り心地の良いラウンジチェアー 一脚あれば、もう書斎なんていらない。
道具は進化しても、人の本質はそう変わらない。
毎日、仕事や家のことでいろんなことを考えて、判断しなければいけないこともある。
そんな中で、ただ一人で落ち着ける時間と場所があると、気持ちに余裕が生まれる。
「ひとりになれる時間」と「物事をじっくり考える場所」。
それが書斎の役割だと思っている。
書斎に必要なのは、“広さ”じゃない
部屋をまるごと一つ用意しなくてもいい。
1畳でもいい。天井が低くても、窓がなくてもいい。
大事なのは、そこが「自分の場所かどうか」。
気に入った椅子があって、読んだ本をそのまま置いておけて、
人に見せる必要のない、小さなこだわりが詰まっている。
そういう空間は、年を重ねるほど、じわじわと効いてくる。
書斎をつくるか、椅子を選ぶか
家づくりの現場にいると、「書斎を作るのに100万もかけるより、
いい椅子を一脚買ったほうがいいんじゃないか」と思うこともある。
親父の椅子、親父のスペース。玉座である。
上質な椅子は、何十年と使える。
自分の体になじんで、考え事に集中できて、
何もしていない時間さえ、ちょっと豊かにしてくれる。
書斎を“空間”として持つのか、
“椅子という道具”として持つのか。
どちらもアリ。どちらも正解。
結局、どうするかは自分で決める
ただ一つ言えるのは、考える場所を持たないと、考えることをやめてしまう。
毎日忙しくて、スマホを見て、何かに追われて、
気がついたら何年も「じっくり考える」ことをしていない、なんて人は多い。
書斎は、それを取り戻す場所だと思う。
だから私は、
「書斎はいらないかもしれない。でも、考える場所はあったほうがいいですよ」
そう答えるようにしている。
家づくりのヒントとして
家づくりの中で、まずはリビングやキッチン、収納が優先になるのはしょうがない。
でも最後に、ちょっとだけ自分の“余白”を考えてみてほしい。
それが書斎でなくても、上質な特別の椅子でいい。
何のために生きているのか。
どこへ向かおうとしているのか。
ときどき、それを思い出す場所を、家のどこかに持っていてほしい。
それが、長く住み続ける家には、意外と大切なことだと思う。
次回は子供部屋について考察してみよう。
「文・長崎秀人(長崎材木店一級建築士事務所 代表)」