売りやすい家は作らない。
売りやすい家は作らない。
我々を信じてくれる人たちのための家だ。
もし、もう一度、自分で家を建てるなら。
誰にも意見を求めない。
流行は追わない。
使うのは、自分の目で選んだ材料だけ。
誰かのすすめでもない。
仕入れの安さや義理で決めることもしない。
出どころの分かる地域の材料を使う。
この土地の空気を吸って育った木。
この季節の移ろいを知る土。
そういうものは、裏切らない。
壊れることは、悪いことではない。
直せるものを使えばいい。
手を入れればいつまでも使える。
そういう材料で、我々は家をつくる。
一つひとつ、手でつくる。
工場で早くできるものに、心は宿らない。
時間がかかることは、理由にならない。
なぜその材料を使うのか。
そこに理由がなければ、選ばない。
「安いから」「手間が省けるから」では、選ばない。
売りやすい家は作らない。
売れることは、目的ではない。
人に売る前提でつくられた家には、興味がない。
選ぶのは、自分がずっと使い続けたいもの。
ずっと住みたいと思える家。
素材も、デザインも、すべてその基準で決める。
「面倒だから」
「手間がかかるから」
「工期が延びるから」コストアップ——
何十年、百年と使われるものを、
そうした理由で簡単に諦めてはならない。
そのどれも、やらない理由にはならない。
けれど、見せびらかすものもいらない。
派手さも、奇抜さも、必要ない。
他所がやっているから。
流行っているから。
そういう理由で決めるものは、すぐ飽きられる。
家は、長く使うものだ。
人の暮らしを、何十年も受け止める場所だ。
流行なんかに、負けてはいけない。
家づくりには、思想や哲学がいる。
「たくさん建てられる」
「たくさん売れる」
そんな言葉に、価値はない。
価値があるのは、
より美しく、住み継げるかどうか。
それだけを信じて、つくる。
「文・長崎秀人(長崎材木店一級建築士事務所 代表)」