「羽ばたく準備室」という考え方
「羽ばたく準備室」という考え方
――子ども部屋は、“狭くていい”という選択。
家づくりの打ち合わせをしていると、
「子ども部屋は何畳必要ですか?」という質問をたまに受ける。
そのたびに思う。
この問いは、どこかずれている。
部屋は数字で測れるけれど、
子どもにとって本当に必要なのは、“広さ”ではない。
子ども部屋は、育てる場所ではない
子どもは、家の中で育つ。
家族との関わりの中で、言葉を覚え、感情を育て、
時にはけんかして、笑って、そうやって人になる。
かつてはテレビやゲームが“個室化”を進めていたが、
今ではスマホひとつで、その世界はすべてポケットの中にある。
いまや、あの小さな画面の中に、世界のすべてが入っている。
「すでに孤立した空間」になってはいないか。
狭くていい。むしろ、その方がいい。
私たちは、あえて提案している。
4畳、あるいは4畳半のコンパクトな子ども部屋。
理由はひとつ。
「できる限り閉じこもらせない」ためだ。
子ども部屋は、寝る・着替える・少し集中するための場所であれば十分。
本当に大事なのは、“気配”が通うこと。
親の気配が感じられる場所に身を置くことで、
子どもは自然と“社会”とつながっていく。
羽ばたく準備室という発想
子ども部屋を“完成された居場所”にしてしまうと、
そこがゴールになる。
でも、子どもは巣立っていくものだ。
だからこそ、子ども部屋は「一時的な場所」であっていい。
“羽ばたく準備室”――それくらいの距離感で設計する。
あくまで“通過点”としての空間。
いつかそこを出て、自分で部屋をつくり、自分で人生を選んでいく。
そのための、仮住まいのような存在でいい。
間取りの工夫が、心の風通しをつくる
リビングの一角にスタディコーナーを設けたり、
子ども部屋とリビングを引き戸でつないだり。
見えすぎないけれど、見えなくはない。
そんな“気配の設計”こそ、これからの家づくりに必要なことだと思う。
それは図面では測れない、けれど確かに心に効いてくる工夫だ。
将来を見据える設計を
子どもはいつか部屋を出る。
巣立ったあとの空間が、“ただの物置”になるのはもったいない。
だからこそ、可変性を持たせる。
初めは広い一部屋にしておき、必要なときに仕切る。
やがて書斎や趣味部屋、あるいは来客用の部屋になるように。
家は“長く使う道具”だから、そのときどきで形を変えていけるのが理想だ。
最後に
広さに意味はある。
けれど、「ちょうどいい距離感」の方が、もっと大切なこともある。
家族の中で育つということ。
個室にこもるのではなく、家全体に居場所があるということ。
それが、子どもの自立心や感性を育てる。
子ども部屋は、“羽ばたく準備室”でいい。
それで、十分だ。
「文・長崎秀人(長崎材木店一級建築士事務所 代表)」