6月22日を前にして。
6月22日を前にして。
一年で、太陽がいちばん高く昇る日。
そして、昼がいちばん長い日。
それが「夏至」。
建築を生業にしている私は、この日がカレンダーに近づくたび、
「もうすぐ夏がくるな」と、ふと感じる。
福岡の空の下、6月22日正午。
太陽は、ほぼ真上にまで昇る。
その高さ、およそ78度。
つまり、影がいちばん短くなる日だ。
木の枝の影も、電柱の影も、
この日ばかりは地面にへばりついて、小さく縮こまっている。
でも、それはただの自然現象じゃない。
我々が家を設計するとき、
この「夏至の太陽高度」をもとに、軒の出を決める。
庇の深さも、窓の高さも、すべて計算に入れる。
それが、住まいの「快適さ」につながっていく。
夏の強い日差しは軒で遮り、
冬のやわらかな光は奥まで導く。
この基本が、実はとても大切だ。
昔の家には、そうした知恵がたくさん詰まっていた。
深い軒。
縁側。
障子越しのやわらかい光。
どれも、光と影を読み、風と仲良く暮らすための“道具”だった。
いまの家づくりでも、それは変わらない。
変わらなくていいものは、ちゃんと残したいと思っている。
夏至の日は、陽が早く昇り、遅く沈む。
福岡では、朝の5時過ぎの日の出。
7時すぎまで陽は沈まない。
14時間以上も、光がある。
こんな日は、照明も空調もなるべく使わずに、
自然のままに過ごしてみたくなる。(梅雨で蒸し暑いけれど)
私の住むあたりでは、この時期から8月まで、南西の風が吹く。
とくに、早朝の風は心地がよい。
海辺に行くと、風はお昼の3時くらいまで吹き、
夕方にはぴたりと止まる。
そして夜になると、また動き出す。
風が抜ける間取り、光を導く窓。
そういう設計は、数字だけで決められない。
感覚もまた、大事な道しるべになる。
季節に身を委ねること。
それが、設計図を静かに導いてくれることもある。
6月22日。
太陽がいちばん高く昇る日。
影がいちばん短くなる日。
家づくりにおいては、
**「設計の答え合わせの日」**とも言える。
この日を意識して設計しているかどうか。
それで、その住まいが本当に季節に寄り添っているかが、見えてくる。
家は、建てたあとが勝負だ。
季節のうつろいに、ちゃんと耐えられているか。
風を通し、光を操り、音をやわらかく包めているか。
図面には描けないものが、そこに宿っているか。
今日もまた、太陽を見上げる。
まぶしいけれど、ありがたい。
そんな気持ちを、設計の中に落とし込んでいきたい。
光と影。
そして、人の気配。
それがあって、ようやく「家」になるのだから。
「文・長崎秀人(長崎材木店一級建築士事務所 代表)」