屋久島の地杉に、会いに行く
屋久島の地杉に、会いに行く
――時間が耐える素材を使うために
1月28日29日と、**屋久島**へ行った。
観光ではない――気分転換でも、ない。屋久島地杉を、建築資材として本当に使えるのか。
それを自分の感覚で確かめるための視察だった。
社名に「材木店」と掲げている以上、木を知らずして家は語れない。
図面や性能表の前に、まず現地へ行き、木に触れる。それが、昔から変わらない私たちのやり方だ。
屋久島は、思っている以上に大きい。
面積は約505k㎡。**福岡市**全体(約343k㎡)の、およそ1.5倍。
翻すと、福岡市には約164万人が暮らしているが、
この広大な島に住む人は、
わずか約1.2万人。密度も、気配も、時間の流れも、まるで違う。
福岡空港から飛行機で約65分。距離だけ見れば意外と近い。
だが、降り立った先は「洋上のアルプス」と呼ばれるお椀型の島だった。その為、島のほとんどが山で、平地は少ない。
最高峰は**宮之浦岳**、標高1,936m。福岡県最高峰の釈迦岳(1,230m)より、さらに700mも高い
海に囲まれた島の中に、九州一の高さを持つ山が立ち上がっている。この時点で、ただ者ではない。
屋久島を決定づけているのは、雨。屋久島は「日本一雨が多い島」
屋久島を紹介する際の有名な言い回しで「山岳部では1ヶ月に35日雨が降る」と
言われるほど、霧のような雨も含むと非常に雨が多く、常に湿度が高い環境。
年間降水量は、福岡市が約1,600〜1,700mm。
それに対して屋久島は、平地でも約4,500mm、山岳部では10,000mmにも達する。
山岳部と比べると福岡の約5倍の雨量。霧と雨が、日常のように島を包む。
気候も極端だ。海沿いは亜熱帯で、年間平均気温は約20度。
一方、山頂付近は北海道並みの寒さになり、冬には雪が積もる。
亜熱帯から冷温帯までが、ひとつの島に凝縮されている。
材木屋の感覚で言えば、木にとっては、相当きつい環境だ。
湿気が多く、雨が多く、風も強い。普通の杉なら、腐るか、弱るか、途中で終わる。
だが、屋久島の地杉は違った。ここで生き残るために、木は自らを変えた。
屋久島地杉に触れて、まず感じたのは油分の多さだった。しっとりしているが、湿ってはいない。
水を弾くような、独特の手触りがある。
雨に腐らないために、虫に食われないために、地杉は体の中に樹脂を溜め込んだ。
その結果、一般的な杉よりもはるかに油分の多い木になった。
屋久杉の樹脂量は、一般的な杉の約6倍とも言われている。自然は、いつも合理的だ。
加えて、屋久島の地盤は火山からなる花崗岩が主体で、土壌は薄く、栄養に乏しい。
木は簡単には太れない。その分、成長は極端に遅くなる。
ゆっくり、ゆっくり育つことで年輪は緻密になり、その細かな隙間に、長い時間をかけて樹脂が詰め込まれていく。
油分が多いのは、豊かだからではない。厳しさを、時間で引き受けた結果だ。
さらに、この島は台風の通り道でもある。強風や倒木によるダメージを、この杉は幾度も受けてきた。
木は傷つくたびに、身を守るため樹脂を分泌する。
それを何百年、何千年と繰り返してきた結果、木全体に油が巡るようになった。
この性格は、使い道をはっきりさせてくれる。
屋久島地杉は、まずデッキ材に向いている。雨にさらされ、湿気に晒される場所でも、水を弾き簡単には朽ちて行かない。
九州は梅雨があり、台風が来る。外に使う木には覚悟が要るが、屋久島という過酷な環境を生き抜いた木なら、
その覚悟を最初から持っている。
同時に、内装材としても魅力がある。油分の多さは、触れたときのやさしさにつながる。
素足でも、手でも、冷たくない。時間が経つほど色は落ち着き、派手さは消えるが、飽きが来ない。
毎日触れる場所だからこそ、こういう木がいい。
屋久島と聞いて、多くの人が思い浮かべるのが**縄文杉**だろう。樹齢数千年。
一本の木というより、時間そのものが立っているような存在だ。
もちろん、私たちが使うのは縄文杉ではない。ただし屋久杉のDNAはしっかり持っている。
同じ風土、同じ雨、同じ時間の流れの中で育った木であることに意味がある。
種子を隣の種子島に持って行って移植したが育たなかったようだ。
また現地で聞いた話がある。
屋久島では昔、この杉が**屋根材(平木)**として使われていたという。
日本でも有数の多雨地域で、屋根に使われていた木。それ以上の説明は、いらない。
私たちは、目新しい素材を探しているわけではない。長く耐える素材を探している。
屋久島地杉は、静かで、強い木だった。主張しすぎず、だが簡単には崩れない。
アジアモンスーン地域である日本で家を建てるということは、この湿気と、この時間と付き合っていくということだ。
その相棒として、屋久島の木は悪くない。いや、かなりいい。
そんな確信を胸に、島を後にした。
PS その場で材木の発注することとした。

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