佇まい
いい家というのは、「ああ、いい佇まいだな」と、
思わず胸の奥でつぶやいてしまう家のことだ。
ふと足を止めた瞬間、言葉より先に心が先走り、口の端から漏れるような一言だ。
派手な意匠も、声高な主張もいらない。
朝の光を受けて静かに立つ姿、夕暮れに溶け込む影の柔らかさ、雨の日にしっとりと息づく木の匂い。
そういうものが、黙って家の価値を語っている。
昔、旅先で見かけた小さな家を思い出す。
特別なものは何もないのに、風景の一部として、そこにあるのが自然だった。
人の暮らしの匂いが、そっと滲んでいた。
ああいう建築は、時間に磨かれていく。
歳月が味方につくのだ。
いい家とは、そういう家だと思う。
住む人の気配が重なり、手入れの跡が静かに残り、季節の光がそっと寄り添う。
そして、ある日ふと誰かが足を止めて言う。
——「ああ、いい佇まいだな」と。

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