― 住宅会社のパンフレットや営業トークで、よく耳にする言葉 ―
「うちはこれが標準仕様です」
床材、キッチン、窓のサッシ、断熱材、建具、照明プラン――
あらゆる部材に「標準」とされるものが決められていて、
施主がそこから“選ぶ”という形が、ごく当たり前のように広まっています。
でも、一度立ち止まって考えてみてください。
標準仕様とは、多くの場合、会社が工事効率や仕入れ価格を最適化するための“業務上の合理性”で決められたセットメニューに過ぎません。
つまり、「よく売れて、手間がかからず、利益が出やすいもの」。
それが、いわゆる“標準”なのです。
もちろん、仕入れコストも抑えられていますのでお客様にとってもメリットはあります。
ショールームで「この中からお選びください」と言われた瞬間、
私たちは“選択しているつもり”になります。
けれど実際は、すでに用意された選択肢の中に閉じ込められていることが多い。
これは、ファミレスのメニュー表を見て「今日はステーキにしよう」と思う感覚に近い。
でも、ステーキじゃない選択肢だって、あなたの体や気分にはもっと合っていたかもしれない。
もちろん、「みんな選んでるなら安心」「変更すると高くなる」といった理由で、標準に寄せたくなる気持ちはよくわかります。
でも、家は一食のごはんじゃありません。
一度選んだら、毎日何十年と使い続ける“生活”の集合体。
毎日触れる場所、目に入る素材、手に馴染む取っ手。
それが、自分の感性とずれていると、やがて“ストレス”になります。
標準仕様が悪いわけではありません。
問題は、“自分の基準”を持たずに、それを選んでしまうことです。
この床は、素足で歩いて気持ちいいか?
この照明は、夜に落ち着けるか?
この壁の素材は、時間とともに美しくなるか?
そんな問いを、自分自身に投げかけながら選んでいくと、
家はだんだん**「あなたの道具」**になっていきます。
私たちは、ひとり一人の暮らしを聞き、対話を重ねながら
「この人にとっての標準って、なんだろう?」を一緒に探します。
だからこそ、言葉の奥にある
“暮らしの癖”や“感じ方”にこそ耳をすませる。
標準仕様はスタート地点であって、ゴールじゃない。
家づくりとは、“選ばされた道”から一歩はみ出す勇気を持つことでもあります。
― 「標準仕様」にまつわる、素朴な疑問にお答えします ―
Q.標準仕様って、どういう意味ですか?
一般的に住宅会社があらかじめ用意している“基本プラン”のことです。
間取りや設備、仕様の一部をセットとして提示し、効率よく家づくりを進めるための仕組みです。それからはみ出るものをオプション仕様と呼ばれます。自動車のように明快に価格が決まっているものもありますが、差額で費用が出される場合もあります。
Q.標準仕様なら間違いないのでは?
一概にはそう言えません。
標準仕様は「コストや作業の効率性」を基準に設定されていることが多く、あなたの価値基準が最終判断となります。妥協は禁物です。コストも念頭におきながらもしっかり見極めていきましょう。
例えば、日々の動線や家事の仕方、肌触りの好みなどは人それぞれです。
Q.標準仕様を選ばないと費用が高くなりますか?
変更内容によっては追加費用が発生しますが、すべてが高額になるわけではありません。
逆に、“必要のないものを標準だからと選ぶ”ことで、無駄な出費になるケースもあります。
不要なものは選ばない、本当に必要なものを選ぶ方が、結果としてコストバランスが整うこともあります。
Q.標準仕様の中から選ぶのと、自由設計はどう違いますか?
標準仕様から選ぶ場合、用意された選択肢の中から決めるスタイル。
自由設計では、暮らしに合わせて設計や素材を一から相談できます。
ただし、自由度が高いぶん、見積もりを一つ一つ取る必要があり、打ち合わせに時間がかかる傾向があります。
Q.どうすれば“選ばされる家づくり”を避けられますか?
一番のポイントは、「自分たちにとっての心地よさ」を言葉にすること。
好きな空間、嫌いな手触り、落ち着く光の入り方など、感覚的なことでも構いません。
それを丁寧に聞き取ってくれる設計士や担当者と出会うことが、よい家づくりのスタートです。
Q.御社では、標準仕様はありますか?
はい、ある一定の目安はございますが、標準仕様というものはございません。あくまで出発点としての目安的な提案です。暮らしや感性に寄り添いながら、「その方にとっての基準」を一緒につくることを大切にしています。
詳細な情報や具体的なアドバイスについては、弊社設計士までお尋ねください。
文責・監修:長崎秀人
福岡県の注文住宅専門の設計事務所「長崎材木店一級建築士事務所」代表。
業界歴35年、建築士・宅地建物取引士資格保有。
設計から施工、不動産取引まで一貫対応する体制で、信頼性の高い住まいづくりを支え続けている。