──光、風、景色、音、気配… 住まいの“奥行き”をつくる窓の本質
こんにちは、設計士の八川です。
家をつくるとき、多くの人がまず間取りを考えます。
リビングは何帖、収納はどれくらい、トイレの位置は…
けれど、住まいの“空気感”を決める大きな要素のひとつが「窓」です。
窓とは、ただの“開口部”ではありません。
自然のリズムと人の感性を結ぶ、住まいの感覚器官のようなもの。
風景、光、音、温度、季節、時間の流れ……
それらすべてを家の中に運び入れ、暮らしを“豊かな物語”へと変えてくれる。
今回は、窓の本質的な役割を、深く、丁寧に掘り下げてみたいと思います。
朝、やさしいひかりで目覚めたときの気持ちよさは、
目覚まし時計では得られない“心の自然な始動”です。
これは色温度の低い朝の太陽光が、目の網膜を通して脳の松果体に届き、
体内時計(概日リズム)をリセットすることに関係しています。
つまり、「窓の位置」と「方位」は、
私たちの生理と心理に直接影響を与える設計要素なのです。
天井に近いスリット窓を東〜南東の壁に設ける
直接視線は入れず、柔らかく拡散した朝の光を取り込む
冬至でも朝日がしっかり届く角度に設計(※日照シミュレーション推奨)
夜は星空を切り取る小さな空としても機能
目覚ましの音ではなく、光で起きる暮らし。
それが心身を整える家の第一歩になるのです。
人は常に「外の世界」とつながっていたいという本能を持っています。
しかし外の喧騒すべてを取り込むわけにはいきません。
だからこそ窓には、**“切り取る力”**が求められます。
見せたい風景だけを見せる
視線の先に静けさを置く
枠の中に風や光や音を封じ込める
このような窓のあり方は、絵画の額縁にも似ています。
何を、どれだけ、どの角度で見せるか。
それが空間に「深さ」と「余韻」を生み出すのです。
かつての日本家屋には、縁側と掃き出し窓がセットでした。
それは「屋内」と「屋外」を分断するのではなく、“つなぐ”ための仕掛けだったのです。
現代の住まいにもその思想は活かせます。
庭に面して、幅2〜3mほどの掃き出し窓を設ける
軒や庇で直射日光を遮り、夏は影をつくり、冬は低い角度の光を室内へ
フルオープンで内と外をつなげると、「気配の行き来」が生まれる
これは単なる開放感ではありません。
家の中にいながら、**風の音や葉擦れ、土の匂い、子どもの声が届くという“暮らしの呼吸”**が始まるのです。
現在進行中のプロジェクトでご提案したのが、「ほたるの窓」。
小さな明かり取り窓から漏れる光が、夜になると外壁にふわっと浮かび、
まるでホタルの光のような儚さと余韻を生む仕掛けです。
昼間は目立たないが、必要な自然光は確保
夜は外観に奥行きとリズムをつくる(照明との連動が効果的)
トイレ・階段・玄関ホールなど、閉じた空間の“抜け”になる
外と内の間に**「静けさを可視化する装置」**として機能
小さな窓こそ、空間に“詩”を生み出します。
光だけでなく、風も窓からしか入ってきません。
窓の配置・高さ・サイズによって、家の呼吸の質はまったく異なります。
風は“低く入って、高く抜ける”
南北に対角で窓を設けると、風の流れが安定
窓の開き方(引き違い/縦すべり/横すべり)で風量も調整可能
「風の通る家」は、湿気がたまりにくく、空気が澄み、住まい手の身体感覚が自然と整う家です。
窓は、ただのパーツではありません。
それは、住まいの**「気配をつくる装置」**です。
朝の光で心と身体を整える
小さな窓で詩的な余白を生む
大きな開口で自然との接続点を持つ
風の流れで呼吸する住まいをつくる
景色の「切り取り方」で、感情の質を変える
つまり、窓をどう開くかは、世界とどうつながるかを選ぶことでもあります。
Q:窓を増やすと断熱性が落ちませんか?
A:確かに昔はそうでしたが、現在は高性能な樹脂サッシ+Low-E複層ガラスにより、窓を適切に設計すれば断熱性と開放感の両立が可能です。
Q:寝室に窓をたくさん付けるのは危険ですか?
A:プライバシーや光のコントロールを考慮すれば問題ありません。視線を避けた高窓・小窓・角度付きの窓などを使えば、快適かつ安全な空間になります。
Q:窓の位置や形は後からでも変えられますか?
A:設計段階でしっかり検討することが大切です。構造・耐震計算・家具配置・光の入り方なども関係するため、早い段階で“窓の思想”を持つことが重要です。
Q:窓の配置と家具がぶつかりませんか?
A:設計段階で家具・カーテン・コンセント計画と一体で調整すれば大丈夫です。「窓ありき」でなく「暮らしありき」で考える設計を行っています。
Q:「ほたるの窓」は夏しか美しくありませんか?
A:いいえ、四季を通じて光と影を楽しめる小さな装置です。雨の日や雪の日にはまた違う表情を見せてくれる、暮らしの余白になります。
普段、住まいに何気なくある窓・・・
おひさまの光や自然の風を取り込み、おうちの顔を作ってくれるなど、大切な暮らしの中の名脇役。
日々の暮らしに合わせて窓を使い分けることにより、毎日が彩り豊かになります。
【朝のひかりがやさしく差し込む窓】
朝、日のひかりを浴びると体内時計がリセットされて、気持ちよくスムーズに目を覚ますことができると言われています。
日のひかりを部屋に取り込む為に重要な役割を果たしてくれる窓、寝室におひさまが昇る東から南東の位置で天井になるべく近い位置に、敢えてスリッド窓を入れてみるのもいいかもしれません。
朝の陽射しがやさしく入り、高い位置であれば外からの視線も気にしなくても大丈夫。夜は見上げると星空を眺めることも。
【内外の空間をさえぎらずにつなぐ窓】
昔ながらの日本家屋には庭に面した縁側に大きな窓があって、室内にいながら外の自然をさりげなく感じられました。そんな空間を演出してくれるのが庭に面した大きな窓。
外の自然を身近に感じられて、外で遊ぶ子どもたちを見守りながら安心して家事もできるかもしれません。